医療の豆知識

慢性C型肝炎 – 治療 – 生活指導

慢性C型肝炎は自然治癒はきわめてまれと考えられ、進行は遅いものが多いのですが、十数年から数十年のきわめて長い経過をとり一部は肝硬変に進展し、高頻度に肝細胞癌を合併します。こうしたことから、HCV抗体陽性者で肝障害があるものはいうまでもありませんが、トランスアミナーゼが正常域にあるものでも、HCVが陽性の人は長期的な管理が必要となります。
慢性C型肝炎の治療目標
慢性肝炎はなおりにくい疾患とされてきました。臨床的には長年月にわたって肝病変が持続しているにもかかわらず自覚症状に乏しく、肝機能検査や肝生検など、検査所見を手がかりに長期間にわたる治療や管理が必要となります。
従来は、慢性肝炎の治療の目標としては、肝の壊死炎症反応を鎮静化させて、線維化の進行を防止し、肝硬変への進展をできるだけ抑制することでした。近来、C型肝炎の診断マーカーが登場し、原因ウィルスの特定が可能になり、原因ウィルスを排除する抗ウィルス療法が普及することにより、慢性C型肝炎を完治させることが治療の最終日標になってきました。しかし現時点では、抗ウィルス療法により完治するものは限られています。したがって、ウィルス排除による完治が最終的な治療目標ですが、現時点では、抗ウィルス療法の無効例、非適応例など完治しえない例については、肝の壊死炎症反応の鎮静化による進展防止に努めながら新たな根治的治療を待たなければなりません。
今のところ慢性C型肝炎の治療には抗ウィルス療法と一般的療法の2つの立場があります。
抗ウィルス療法による完治例が限られていますので、半数以上の慢性C型肝炎患者に対しては次に述べるような生活指導を含めた長期管理が必要です。自覚症状が乏しいにもかかわらず長期管理が必要であるため、患者さん自身がこの病気の性質、経過、長期管理の必要性や目的などをよく理解することが重要です。
日常生活の指導
・外来通院の間隔
特に自覚症状がなく、トランスアミナーゼが100単位以下の状態では2-4週に一回の通院でよいでしょう。外来受診時には疲れやすさ、食欲低下、腹部の膨満感、体重の変化などの症状の有無を医師に報告し、医師は黄疸の出現や肝臓が腫れているかなどの身体所見に変化がみられないことを確かめて、肝機能検査の結果を説明し、病状に合わせた生活上の指導をします。
検査の間隔についてもこのような安定した患者では4週に1回程度でよいでしょう。
トランスアミナーゼが100-300単位l羊上昇した場合にも直ちに治療を変更する必要はありません。通院間隔を1-2週に1回に短縮して4-6週程度経過をみて下降しなければ安静を強化し、薬物治療により下降を図ります。黄疸が出現したり、疲れやすさなどの自覚症状が強い場合やトランスアミナーゼが300単位以上に上昇し、 2-4週以上持続する場合は入院治療が必要です。
・安静、運動
慢性C型肝炎患者に対しては必要以上に厳しい安静や日常生活上の制限を要求することは患者の社会生活を制約し、長期の療養を困難にするので社会生活と療養が両立しうる現実的な生活指導をすることが必要です。
一般的には、自覚症状がなくて、トランスアミナーゼが100単位以下であれば、極度に過激な運動を避ける以外には運動制限をする必要はありません。レクリエーションとしての軽い運動は制限しなくてよいでしょう。
過激な肉体労働以外は仕事についても特に制限しないで7-8時間の睡眠をとり、規則的な日常生活を続けるよう指導します。
入浴についても制限の必要はありません。可能ならば、食後30-60分くらい横になったり、座ったりして安静にすることが望ましいでしょう。慢性肝炎の場合、食後の安静が肝病変の進展抑制にどの程度の効果があるかは明らかではありませんが肝臓への血流量は立っている時では横になっている時に比して約30%低下し、運動することによりさらに減少するとされているので、実行できる場合は、できれば食後60分くらいは運動は避けるほうがよいと考えられています。
トランスアミナーゼが100-300単位に上昇している場合は、残業などを禁止して仕事量を減らし、睡眠時間のほかに、食後の安静を含めて1日4-5時間の安静をとるようにします。短時間の入浴は制限する必要はありませんが、疲れやすさなどの症状を自覚するようであればシャワー程度とします。
トランスアミナーゼが300単位以上に上昇した場合は仕事を休みできるだけ安静をとるようにしますが、2-4週間以上高値が続く場合は入院した方がよいでしょう。
・食事指導
食事については、肝疾患一般では高蛋白、高カロリー食が推奨されてきましたが、慢性肝炎では消費カロリーに見合ったカロリー摂取が望ましく、通常、成人で2,200-2,400kcal程度とされますが、肥満者や運動制限をしているものでは2,000kcal前後にむしろ制限する場合もあります。カロリーの過剰摂取は脂肪肝を合併させ、肝機能検査の評価を複雑にするので好ましくありません。
各栄養素も特別な制限は必要なく、偏りのないバランスのとれたものであればよいでしょう。
蛋白質も体重1kg当たり1-l.5g程度は必要です。できるだけ動物性蛋白が総蛋白摂取量の50%以上を占めるようにすることが望ましいでしょう。
脂肪量も日本人の平均的な摂取量程度で厳しい制限は不要ですが、過度の脂肪摂取は避けた方がよいでしょう。糖質はカロリー摂取が過剰にならないように心がける程度でよいのですが、肥満者や体重増加傾向のあるものでは糖質量を減らして総カロリーを抑える必要があります。ビタミン類は複雑な肝臓の機能の基盤になっている諸種の酵素反応の補酵素としての役割をもつものが多いので不足しないように注意する必要がありますが動物性の蛋白質、緑黄色野菜、新鮮な果物などをバランスよく摂取していればビタミン類が不足することはありません。
アルコール類は禁止すべきであるとの考えが一般的であり、禁酒を原則としますが、患者さんによっては厳格な禁酒がかえって隠れた飲酒に走らせる場合もありますので、少量の飲酒を認めることが効果的と考えられる患者さんにはトランスアミナーゼ100-150単位以下のときに限って1日に日本酒など1合またはビール1本以下の飲酒を許可してもほとんど影響はないと思われます。
・入院
慢性C型肝炎患者にとって入院が必要な場合は、検査や抗ウィルス療法など特殊な治療のための入院のほかに、急性悪化時で黄疸や極度のだるさなどの自覚症状が出現したり、それまで100-150単位以下だったトランスアミナーゼ値が急に300単位以上に上昇して2-4週以上高値が続く場合です。
入院治療により自覚症状が消失しトランスアミナーゼ値が100単位以下に下降し、2週間くらいこの程度のトランスアミナーゼ値が続きましたら退院とし、外来治療にもどして、できるだけ早期に職場に復帰させます。
・合併症のチェック
慢性C型肝炎は長年月の経過をとり、一部は肝硬変へ進展し、肝細胞癌を合併する可能性のある病気です。したがって、経過中、定期的に進展状態、合併症併発の有無についてチェックし、病態の変化を早期に診断し、対応する必要があります。慢性肝炎の進展度によって多少異なりますが、肝臓の組織学的な進展度の進んだ症例では定期検査にα-フェトプロティン(以後AFPと呼びます)やPIVKA IIなどの腫瘍マーカーを加え、3ケ月ごとに超音波検査やCTスキャンによる肝細胞癌合併の有無のチェックを行います。上部消化管内祝鏡による食道静脈瘤のチェックも少なくとも1年に1回は必要でしょう。

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