C型肝炎と肝硬変・肝細胞癌
C型肝炎
2008年08月04日
日本の肝癌の死亡数は年間25,000人にのぼり、さらに増加しつつあります。肝細胞癌は原発性肝癌の90%以上を占めますがHCV抗体陽性肝細胞癌の増加が著しく、現在日本の肝細胞癌の75%を占めています。C型慢性肝炎は、肝硬変・肝細胞癌への進展が臨床的に経験され、一方、HCV抗体陽性肝細胞癌の非腫瘍部には必ず慢性肝障害が認められます。日本の肝細胞癌の90%以上は、HBVとHCVの持続感染に起因する慢性肝障害の結果といえます。
輸血は明らかなHCV感染経路であることから、HCV感染から肝細胞癌と診断されるまでの期間は、およそ20年から40年と推定されます。慢性肝炎例の長期経過観察から、肝細胞癌の発癌頻度はHCVがHBVに比べて高く、HCVの発癌頻度は慢性肝炎診断時の組織学的な進行度に比例して上昇Lます。また肝細胞癌診断時の肝硬変の合併率は、HCVがHBVと比べて高率です。さらにHCV感染肝細胞癌では、HBVと比べて比較的腫瘍径の小さい段階から多発する傾向 がみられます。感染しているHCVの型の違いにより慢性肝障害の臨床像は異なる可能性が示されていますが、肝細胞癌の臨床・病理学的所見に差はみられません。
HCVの発見により、感染の予防や抗ウィルス剤による治療が可能となり、肝細胞癌の発症を抑制する展望が開けました。
今後、HCVによる発癌機序や肝発癌早期に生じる腫瘍遺伝子の構造異常の解明が待たれています。
A.肝硬変からの癌化の予知
ある施設からの報告では、C型肝炎から移行した肝硬変のうち、GPT年平均値が持続して80単位以上の群では5年間で44%が発癒したのに対し、GPTが持続して80単位未満に抑えられた群では5年間で7%が発癒したにすぎなかった。
GPT80単位以上持続群においても、多薬併用療法施行例においては、その発癌率は、ある施設では5年で16例中4例と全国平均に比べて決して高くはないということで、各症例に工夫をこらして多薬併用療法を行い少しでもGPTを下げることは大変有意義なことと思われます。
GOTにおいても80以上群で80未満群より発癌率が高い傾向にありましたが、有意差は認められませんでした。
AFP値でも30ng以上群が30ng未満群の約2倍と高率に肝癌を発生しましたが、有意差は得られていません。AFPは肝癌症例ではない肝硬変症を含む肝の良性疾患でも肝細胞再生に際して産生されることが分かっています。)
もう一つ、注意しなければいけない指標にコリンエステラーゼという検査値があります。これは肝臓の蛋白合成能をみる検査であり、この数字が進行的に下がってくるようなケースは必ず肝炎が進行しています。
B.肝細胞癌の早期診断
我が国における肝細胞癌による死亡者数は近年上昇傾向を示し、HCV起因の慢性肝疾患、特に肝硬変から発生したものが80%以上を占めています。言葉を換えれば、これらのウィルス起因性慢性肝疾患に対し、厳重な経過観察をすることにより大多数の肝細胞癌の早期発見が可能であることを示しています。
肝細胞癌の早期診断においてミリサイズの早期の肝細胞癌の発育速度、超音波学的特徴、腫瘍マーカーの陽性率などを理解し、定期的かつ持続的に効率よく慢性肝炎、肝硬変の患者を超音波検査するならば、ほとんどの症例は20mm以下で発見され、5年生存率も80%に達することができます。
a.超音波によるスクリーニング
20mm以下の肝細胞癌が非常に珍しかった約10年前、腫瘍容積の倍増時間は80日前後とする報告が国の内外で一般的でした。しかし現在、早期診断といえば通常20mm以下の発見を意味します。一方、早期の肝細胞癌とは直径で15mm以下が妥当なところとされつつあります。この直径15m血以下の肝細胞癌の倍増時間は約9ヶ月と、従来報告されていたそれとは異なり、非常に長くなっています。早期の肝細胞癌は非常にゆっくりと発育しているのです。実際の発育を具体的に解説すると、直径5mmから直径6mmまで増大するのに7ヶ月を要し、8mmから10mmまで8ヶ月、10mmから15mmまで大きくなるのに1年4ヶ月もかかる訳です。15mmを越えるとすこし速くなり、15mmから20mmまで9ヶ月、20mmを越えると加速度的に増大のスピードは速くなり、20mmから30mmまで6ヶ月、30mmから40mmまでは僅か3ヶ月月です。このように、理論上は肝細胞癌の早期診断は100%可能です。人的な検査であるのでエラーは常に考慮されるべきですが、最も重要なことは直径20mmの癌腫から、予後が非常に悪い直径40mmの進行肝癌に進展するのに僅か9ヶ月ということでしょう。このことは3ヶ月ごとの継続的で定期的な超音波検査が如何に大切かということを物語っています。慢性肝炎や肝硬変の人で、予測がつかないこの”魔の9ヶ月間”を超音波検査せずに過ごすことがあれば、それは誰の責任でしょうか。
決してAFP値が低いからといって、超音波検査において油断してはなりません。ミリサイズの時点で肝細胞癌を早く発見しようとするならば、AFP値が低い症例であっても熱心に検査すべきでしょう。
超音波による早期診断は100%可能であるはずですが、実際には超音波検査の弱点があり、この弱点を理解して検査を行う必要があります。
b.AFP、PIVKA-Ⅱ
肝細胞癌の血清学的診断法として慢性肝疾患経過観察例における、AFPならびにPIVKA-Ⅱの測定が広く行われています。AFPは陽性率が高く、PIVKA-Ⅱはその疾患特異性が優れているという特徴を持ち、互いに相補的関係にあるため、交互の測定が推奨されます。また、最近ではAFPの特異性向上を目的にその癌化に伴う糖鎖変異であるフコシル化率の測定が行われています。